
はじめに:その“安心”、本当に安心ですか?
最近ニュースでも話題になっている「プラチナNISA(高齢者向けNISA)」──。
「年金の足しになる」「毎月分配型で安心」などと報道されていますが、 本当にそれは“高齢者のため”の制度なのでしょうか?
たとえば、ある高齢者の方が「毎月お金が入ってくるなら安心ね」と思って始めたとしても、 それがどんな仕組みなのかをよく知らずに始めてしまうと、 あとから「こんなはずじゃなかった」と後悔することもあるかもしれません。
この制度は、これからスタートする予定の新しいNISA制度です。 けれども、その内容は決してやさしくはありません。
専門用語も多く、「分配型投信って何?」「スイッチングってどういう意味?」といった疑問を持つ方も多いと思います。
だからこそ、始まる前の今のタイミングで、 この制度の“表と裏”を一緒に見ておくことが大切です。
この記事では、プラチナNISAの仕組みをできるだけわかりやすく説明しながら、 「安心に見えるけど、本当に安心なのか?」という視点で 注意しておきたいポイントを紹介していきます。
プラチナNISAとは?──制度の概要
プラチナNISAとは、金融庁が検討している「高齢者専用のNISA制度(2026年度以降)」で、主に以下のような特徴があります:
・毎月分配型の投資信託をNISAの非課税枠で保有できる
・一度だけ、既存のNISA口座資産を「スイッチング(乗り換え)」できる特例が設けられる
・高齢者の生活支援・資産形成が表向きの目的
この制度のポイントは、「毎月お金がもらえるタイプの投資信託」を、税金がかからない仕組み(NISA)で持てるようにしよう、という点です。
一見すると、「毎月もらえて安心」「税金がかからないからお得」といった、うれしいメリットがあるように感じます。
でも、ここで大事なのは、その“安心”や“お得”の中身が、本当に自分に合っているか?ということです。
仕組みをよく見てみると、実は注意しておきたい点もあるのです。
次のパートでは、分配金のカラクリや見落としやすい落とし穴を、わかりやすく見ていきましょう。
毎月分配型ファンドの“裏側”を知っていますか?
「毎月お金がもらえる投資信託」と聞くと、ちょっと嬉しくなりますよね。
まるで“もう一つの年金”のように感じる方もいるかもしれません。
でも、ここで一度、立ち止まって考えてみてほしいのです。
その「毎月のお金」は、いったいどこから出ているのでしょうか?
実は、毎月分配型の投資信託には、次のようなしくみがよく見られます。
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本来は投資で得た利益(配当や値上がり益)を分けるのが理想
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でも、実際には「元本」──つまりあなたが最初に出したお金──を取り崩して払われていることも多い
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そのため、見かけは“もらっている”けど、実は“自分のお金を戻されているだけ”というケースも
このように、利益ではなく元本からお金を払っている分配のことを、俗に「タコ足配当」と呼びます。
まるで自分の足を食べているタコのように、資産をじわじわと減らしていくイメージです。
たとえば、100万円を投資したのに、毎月1万円ずつ「分配金」として戻ってくると、
10ヶ月後には“利益が出ていなくても”資産が90万円に減っている、なんてこともあるのです。
金融機関は「毎月もらえる安心」をアピールしがちですが、
それが本当に増えているお金なのか、ただ戻されているだけなのか──
そこをしっかり見極めることが大切です。
ちなみに私自身は、あえていくつか保有しています。
実験的に保有しているのですが、こちらについてはまた別の記事でお伝えしたいと思います。
なぜ今、政府は“高齢者のお金”に目を向けているのか?
プラチナNISAがつくられようとしている背景には、「高齢者がたくさんのお金を持っている」という現実があるからかもしれません。
実は、こんな数字があるのをご存じですか?
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日本の高齢者(おもに70代以上)が持っている預貯金は、およそ 80兆円
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一方で、相続が発生しても、相続税として国に入るお金は年間2〜3兆円程度
立憲民主党幹事長の小川さんが、上記のように語っています。
つまり、「そのまま相続されてしまうと、ほとんど税金が取れない」というのが今の日本の状況なのです。
これをふまえて考えると、政府としてはこう思っているかもしれません。
「それなら、生きているうちにお金を使ってもらって、
市場に流してもらった方が経済も動くし、税金も取りやすいじゃないか」
もしかしたら「投資を通じて資産を活用してもらう」という考え方をしているのかもしれません。
プラチナNISAは、そうした動きを後押しする仕組みのひとつとも言えるかもしれません。
さらに、毎月分配型の投資信託は、以下のような特徴があります。
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手数料が高めに設定されていることが多い
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購入時や保有中、さらには解約時にもコストがかかる場合がある
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証券会社にとっては「利益の出やすい商品」でもある
つまり、高齢者が安心して使えそうな制度のように見えて、
実は“国と金融機関の思惑”がうまく絡んでいる構造ともいえるのです。
もちろん、すべてが悪いとは言いません。
でも、「生活支援」というやさしい言葉の裏にある仕組みに、しっかり目を向けておくことは、とても大切なことです。
高齢者が本当に望んでいる制度なのか?
プラチナNISAは「高齢者の生活を支えるため」と言われていますが、本当に多くの高齢者がこの制度を望んでいるのでしょうか?
少し立ち止まって、現実を見てみましょう。
すでに投資経験のある高齢者の多くは、株式や投資信託を長く扱ってきた経験を持っており、高配当株やETFなどを自分で選びながら、安定的に運用していることが多いです。
そういった人たちは、分配型ファンドの手数料の高さや、元本を削って分配される「タコ足配当」のリスクも理解しているため、制度の仕組みに対して冷静な目を持っています。
一方で、今までまったく投資に触れてこなかった高齢者にとっては、投資=ギャンブルというイメージが強く、「非課税」といった言葉だけでは簡単に動かないのが現実です。
加えて、「分配型投信」や「スイッチング」といった専門用語が多く、制度そのものが難しすぎて理解できないという声も出てきそうです。
つまり、投資をしてきた人にも、してこなかった人にも、プラチナNISAは“ちょっとズレている”可能性があります。
この制度は「安心して投資を始められるように」と設計されているように見えますが、実際には内容が複雑で、どう選んでよいか分からず、「証券会社のすすめに従ってなんとなく始めてしまう」というリスクもあるのです。
制度の方向性が悪いとは言いません。
しかし、本当に高齢者のためを思ってつくられているのであれば、「やさしい言葉」だけでなく、「わかりやすい仕組み」であることが、もっと大切なのではないでしょうか。
おわりに:大切なのは“知って選ぶ”こと
プラチナNISAという制度が、これからどのような形で実現するのか──まだ確定していない部分も多くあります。
だからこそ、今のうちから「どんな仕組みで、誰のための制度なのか?」という視点を持っておくことがとても大切です。
「毎月もらえる」「非課税でお得」──そんな言葉に安心を感じるのは自然なことです。
けれど、どんな制度にも“メリットだけではない面”があるということも、知っておいて損はありません。
私たちができることは、制度を正しく理解し、自分にとって本当に必要な選択かどうかを考えること。
そのうえで「納得して使う」ことができれば、それはきっと良い制度として活かされるはずです。
この記事は、制度を否定するものではありません。
ただ、「知らないまま始めてしまう」のではなく、「知ったうえで、自分で選ぶ」ためのきっかけとしてお届けしました。
情報は、時に未来を守る盾になり、時に希望をつくる道しるべにもなります。
これから投資を考えるすべての人が、自分の人生にとって“納得できる選択”を重ねていけるように。
そんな願いを込めて、この記事を締めくくりたいと思います。
