
1-1. なぜ私は買ったのか?
正直に言うと、毎月分配型の投資信託には、これまであまり良い印象を持っていませんでした。
手数料は高いし、分配金が場合によっては元本の取り崩し(=特別分配)であることも多い「毎月お金が戻ってくる=安心」なんて、錯覚に近いとも思っていました。
それでも私は、2025年の春、
「世界のベスト」と「アライアンス・バーンスタイン米国成長株Dコース」という毎月分配型ファンドの中でも人気の2つの商品を、それぞれ10万口まで買い増ししました。
最初は2月、検証のつもりで各ファンドを5万口ずつ。
そして4月、いわゆる「トランプ関税ショック」によって基準価額が大きく下落したタイミングで、さらに各5万口を追加購入しました。
なぜ、あえてこのタイミングだったのか?
それは、自分のためというより——
「これから投資を始めようとする高齢者が、安易に飛びつかないように」
という、ちょっとした提言のつもりだったのです。
ちょうど、プラチナNISAという新しい制度が発表されたタイミング。
毎月分配型が「高齢者限定」でNISA解禁される——
まるで「分配金が出るから安心ですよ」と言わんばかりの流れ。
でも本当にそうでしょうか?
📝 プラチナNISAの制度的意図と構造
プラチナNISAとは、2025年に政府が打ち出した新しい非課税制度。
対象は「65歳以上の高齢者」。
そして目玉の1つは、これまで新NISAで対象外だった毎月分配型投資信託が“解禁”されるという点です。
「これで高齢者でも投資ができる」
「毎月の分配金があれば、年金以外の収入にもなる」
そんな期待がSNSやニュースで広がっています。
しかし、冷静に制度の背景を見てみると、決して“やさしい制度”とは言えない側面が見えてきます。
なぜ今、わざわざ「毎月分配型」をプラチナNISAで解禁するのか。
その理由はおそらく、“高齢者のお金を市場に誘導したい”という政府の本音があるからです。
高齢者マネーを「動かすための設計」
現在、高齢者が保有する預貯金は80兆円を超えるとも言われています。
政府としては、こうした“眠っているお金”を株式市場へと流し、経済を活性化したい。
その一手として「非課税枠×高齢者×分配金」の組み合わせが選ばれた、というのが実情でしょう。
毎月お金が振り込まれるという安心感。
配当や利回りより、“キャッシュフローがある”という分かりやすさ。
これなら投資に不慣れな高齢者でも手を出しやすい。
その“心理設計”が、制度全体に織り込まれているように感じるのです。
相続時の“簿価評価”という落とし穴
しかし、問題はここからです。
プラチナNISAで購入した資産は、保有者が亡くなった時点でNISA口座ではなくなり、相続人の特定口座に移管されます。
そしてこのとき、取得価格が「亡くなった時点の評価額(簿価)」に置き換わるのです。
一見、これはありがたい仕組みに見えます。
たとえば、1000円で買った株が相続時に3000円になっていれば、相続後に3000円で売っても課税されない。
まるで“お得”に見えます。
でも、反対のケースはどうでしょう?
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1000円で買ったものが、相続時に500円に値下がりしていた
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その後1000円で売却した
このとき、NISAで保有していた場合は相続時の簿価=500円が基準になるため、500円分の利益として課税されてしまうのです。
一方で、特定口座であれば取得価格はあくまで生前の1000円なので、売却額が1000円でも利益ゼロ。非課税で済みます。
損益通算や繰越控除も効かない
さらに言えば、相続時に含み損だったとしても、
NISA口座では「損失扱い」にもならないため、他の利益と相殺する「損益通算」も「損失の繰越控除」もできません。
つまり…
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含み益で相続 → 課税されない(お得)
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含み損で相続 → 課税される or 通算できない(不利)
このように、運良く値上がりしていれば“ハイリターン”だが、値下がりしていれば“ハイリスク”になる。
非常にバランスの悪い構造になっているのです。
📝 毎月分配型投信の本当の姿と、よくある勘違い
「毎月、分配金がもらえる」
この響きに安心感を覚える人は少なくありません。
特に、高齢になり年金生活に入ると、「現金が定期的に振り込まれる」という仕組みそのものが、“老後の安心”として心を支えてくれる存在にもなります。
けれど、ここにこそ最大の誤解があります。
分配金の正体は“利益”ではないこともある
毎月分配型の投資信託では、「普通分配」と「特別分配」という2つのパターンがあります。
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普通分配:ファンドの運用益から支払われる利益 → 課税対象
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特別分配:元本を取り崩して支払われる → 非課税だが、実質は“自分のお金”
特別分配金は、帳簿上は非課税で受け取れるので得したように感じますが、その実態は「自分が投資した元本の一部が戻ってきている」だけです。
まるでATMでお金を引き出して「利益が出た」と言っているようなもの。
にもかかわらず、証券会社の画面には「分配金150円」とだけ表示され、中身が特別分配なのか普通分配なのかをきちんと見ていない人も多い。
この“構造のブラックボックス”が、投資初心者や高齢者には特に大きな落とし穴となります。
タコ足配当=長期保有ではマイナスにもなり得る
特別分配が続けばどうなるか?
ファンドは運用益がないにもかかわらず分配を続けることになり、純資産がどんどん減っていきます。
つまり「運用しながら資産が減る」という、本来矛盾するはずのことが起きてしまうのです。
これが、いわゆる「タコ足配当」。
市場が堅調なときには気づかれにくいのですが、ひとたび相場が崩れ始めると、「分配が止まる or 無配になる」ことも珍しくありません。
そして、高値で買って、下落して無配になるというのが、典型的な“損するパターン”です。
でも私は、今あえて買い増した
こんなリスクを理解したうえで、私はあえて「世界のベスト」と「アライアンス・バーンスタイン米国成長株Dコース」を買い増しました。
理由は、今が“仕込みどき”だと考えたからです。
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基準価額が下がっている → 平均取得単価を下げるチャンス
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特別分配でも再投資すれば口数が増える → 将来の分配金を増やせる
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分配金が止まっても、安く買っていれば再開時に一気に回収できる
分配金が多く出ている“人気の時期”に買う必要はありません。
分配が止まって“ダメだ”と思われているときこそ、静かに仕込む。
これが、分配型投信との正しい付き合い方なのではないかと、私は思っています。
📝 私がとった“分配金ファンド”との付き合い方
2025年の春、私はあえて「世界のベスト」と「アライアンス・バーンスタイン米国成長株Dコース」を、それぞれ10万口まで買い増しました。
最初は2月、検証目的で各ファンドを5万口ずつ。
そして4月、トランプ関税ショックと呼ばれる下落局面でさらに各5万口を追加。
「分配金が止まったから買わない」のではなく、
「分配金が止まっている今こそ、仕込み時」という考え方でした。
世界のベスト|特別分配を活かし、“普通分配の未来”を仕込む
世界のベストは、基準価額が下がると特別分配になる商品です。
つまり、今のような下落局面では、分配金は出ていても「元本の払い戻し」にすぎないことも多い。
けれど、それでも私は買いました。
なぜなら、このタイミングで買い増すことで平均取得単価を下げられるからです。
取得価格が下がれば、今後の基準価額の戻りによって普通分配に移行する可能性が高まる。
さらに、特別分配で受け取った現金をそのまま再投資すれば、保有口数も増える=将来の分配金も増えるという仕組みがつくれます。
アライアンス・バーンスタイン米国成長株Dコース|基準価額連動型の買い時
一方のアライアンス・バーンスタイン米国成長株Dコースは、
基準価額に応じて分配金が段階的に変わる設計。
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10,000円未満 → 原則無配
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11,000円以上 → 分配200円
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12,000円以上 → 300円
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13,000円以上 → 400円
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14,000円以上 → 500円
現在の基準価額は9,000円台。つまり“分配ゼロ”の期間です。
でも、このタイミングで口数を集めておけば——
基準価額が11,000円を超えたとき、一気に分配金が跳ね上がる構造になっています。
たとえば、今のうちに10万口保有していれば、将来的に毎月3万円〜5万円規模の分配金を受け取る可能性もあるのです。
目的は「高配当生活」ではなく、「高齢者投資家への提言」
もちろん、私自身も分配金を生活資金として期待している部分はあります。
でもそれ以上に、今回の買い方は「こういうスタンスもある」ということを伝えるためのものでもあります。
多くの人が「分配が出ているから買う」と思っている中で、
私は“分配が止まっている今こそ仕込み時”だと考えた。
そんな視点も、特にこれからプラチナNISAで投資を始めようとする方々に届けたい。
これは私個人のポジションというよりも、未来の投資家への提案なのです。
📝 結論|買う自由と、気づく責任
投資は、いつだって自己責任です。
どの銘柄を買っても、どの制度を使っても、それを選んだのは“自分自身”だから。
でもだからこそ、本当に「知って」選んでいるか? は、
この時代を生きる私たちにとって、ますます重要な問いになってきていると感じます。
プラチナNISAという制度は、一見すると高齢者にやさしく見えます。
「非課税」「毎月分配」「わかりやすい」——
でも、その設計の裏側には、国の税制・市場・相続といった思惑が交錯しています。
そして、毎月分配型という商品も、分配金が出る=得をしている、とは限らない。
本当の利益は、“そのお金がどこから出ているか”を理解して初めて成立するものです。
私はあえて、分配が止まりかけていたときに買いました。
その理由は、「下がっている今だからこそ、仕込めるから」。
そしてもうひとつ、「この買い方こそ、これから分配型を選ぼうとする人に知ってほしかったから」。
非課税という言葉に惑わされず、
分配金という数字の奥にある“仕組み”を知ってほしい。
安心で選ぶのではなく、
自分の意志で、買う・買わないを決められる人が、ひとりでも増えてくれたら——
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次の選択をする前に、ふと立ち止まり、
この考え方を思い出してもらえたら嬉しいです。
